35歳、独身、OL。仕事はそれなりに回っていて、年収も悪くない。ただ、休みの日に予定がないと、自分が何のために生きているのかわからなくなる。そんな状態が、ここ2〜3年ずっと続いていた。
恋愛がしたいのか、ただ誰かに触れてほしいのか、自分でも判別がつかない。マッチングアプリは何度か試したけど、会うまでのやりとりで疲れてしまう。「今日この時間、誰かに話を聞いてほしい」という瞬間的な欲求に、アプリは応えてくれない。
そんな話を友人に愚痴ったとき、彼女が「女性用風俗、知ってる?」と切り出してきた。
正直、最初は引いた。風俗という言葉に対する抵抗感は、思っていた以上に自分の中で大きかった。でも、彼女は淡々と「セラピストと話すだけでもいいし、マッサージだけで帰る人もいる。一回行ってみてからでも判断は遅くない」と言った。
その夜、ベッドに入ってからも、ずっと友人の言葉を反芻していた。
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>>女性用風俗(女風)とは
予約までに2週間迷った
サイトを開いては閉じる、を2週間繰り返した。
迷っていた理由は、料金でも安全性でもなく、「自分がそこに行くという事実をどう受け止めるか」だった。ちゃんとしている女のはずの自分が、お金を払って男性に会いに行く——その構図そのものが、自尊心を試してくる感じがした。
ただ、サイトをよく読み込むと、「マッサージのみ」「セラピストとの会話メイン」という選び方をしている利用者も多いと書いてあった。極端な性的サービスをいきなり強制される場ではない、ということが繰り返し書かれていた。
「合わなければマッサージだけで帰ればいい」
そう自分に言い聞かせて、ようやく予約フォームを送信した。
当日、ホテルに着くまで
予約日の朝、いつもより念入りに身支度をした。下着も新しいものをおろした。誰かに見せるためというより、自分の覚悟を作るための儀式に近かった。
待ち合わせのホテルに着いたとき、ロビーを通る数秒間がいちばん怖かった。誰も自分のことなんて見ていないとわかっていても、視線が痛い気がする。エレベーターに乗り込み、深呼吸を3回した。
部屋に入ってから、セラピスト(仮にNさんとしておく)が来るまでの10分間。テレビをつけても内容が頭に入ってこない。スマホを見ても文字が流れていくだけ。「今ならまだ帰れる」が頭をよぎる。でも、帰ったあとの自分が、もっと後悔するのもわかっていた。
第一印象は「普通の人だった」
ノックの音にびくっとして、ドアを開けた。
立っていたのは、想像していたよりずっと普通の感じの男性だった。礼儀正しく、目を合わせて挨拶をしてくる。よくある「キラキラした男性」みたいな圧がなかったのが、まず安心した。
最初の30分は、ほぼ会話だった。今日の流れの説明、過去にこういうサービスを使ったことがあるか、苦手なこと、触れてほしくない部分。一つひとつ確認しながら進めてくれる。
そのあいだに、自然と仕事の話になった。普段なら絶対に他人に話さないような、職場の人間関係の細かい愚痴まで、なぜか口から出てきた。
Nさんは否定も肯定もせず、ただ「そうなんですね」「それはきつかったですね」と相槌を打ってくれる。それだけのことなのに、肩の力が抜けていくのがわかった。
施術中に感じたこと
触れられて気づいた、自分の身体の硬さ
バスローブに着替えてベッドにうつ伏せになり、施術が始まった。
最初に背中に手が置かれた瞬間、自分の身体がガチガチに硬いことに気づいた。普段、人に触れられる機会がないと、ここまで筋肉が固まるのか、と他人事のように思った。
Nさんはオイルを使って、ゆっくり背中から腰、肩へと手を動かしていく。「ここ、張ってますね」と言われて、自分でも気づいていなかった凝りを言い当てられる。仕事で同じ姿勢が続いているからだろうな、と思いながら、ただ身を任せる。
20分くらい経ったところで、ようやく身体の力が抜け始めた。
「自分を労る」感覚を、久しぶりに思い出した
施術中、ふと「自分のために誰かが時間と技術を使ってくれている」という事実が、妙に染みた。
普段、自分は誰かのために何かをすることばかりだと思っていた。仕事も、家族との関わりも、友人付き合いも、どこかで「役に立たないといけない」というプレッシャーがあった。
それが、この2時間だけは完全に逆転している。誰かが自分のためだけに動いてくれていて、自分は何も返さなくていい。お金を払っているから、というロジックでは説明しきれない種類の安心感だった。
途中、目尻から涙が一筋流れた。Nさんは何も言わず、ただ施術を続けてくれた。それも、ありがたかった。
性的なサービスについて
ここから先は、人によって選び方が大きく分かれる部分だと思うので、簡単にだけ書く。
オプションの選択肢は事前に確認していたけれど、その日の自分が何を必要としているかは、施術が始まってから決めた。結論として、想像していたよりは身を委ねたし、想像していたよりは冷静に「ここまで」というラインを引けた。
大事だったのは、Nさんが終始「あなたのペースで」を貫いてくれたことだ。何かを強制される空気は一度もなかったし、こちらが躊躇したときには自然に他のことに切り替えてくれた。
性的な刺激そのものよりも、「拒否しても受け入れてもらえる」という安全な状況下で、自分の身体が何を欲しがっているかを観察できたことのほうが、後から効いてきた気がする。
帰り道に考えたこと
解放されたのは、性欲ではなく「自己評価」だった
ホテルを出て、駅まで歩く道。空気が違って感じた。
身体が軽くなったのもあるけれど、それ以上に、自分に対する評価が一段やわらかくなっていた。「私は別に、誰かに選ばれなくても価値がある」みたいな大それた話ではなく、「私の身体も心も、ちゃんとケアされる対象として存在していい」という、もっと地味で根本的な感覚だった。
恋愛が上手くいかないことを、ずっと自分の魅力のなさのせいにしていた。でも、それは因果関係を勝手に作っていただけで、本当はただ自分を労る時間が足りていなかったのかもしれない、と思った。
罪悪感がゼロかと言われると、嘘になる
正直に書くと、帰宅してから数日は、軽い罪悪感のようなものが残った。
「お金を払って男性に会う」という行為に、自分の中の保守的な部分が引っかかり続けたのだと思う。誰かに胸を張って言える話ではないし、家族に知られたら気まずい。
ただ、罪悪感と「行ってよかった」は両立する。両方を抱えたまま、自分にとって何が必要だったかを冷静に振り返れたのは、収穫だった。
この体験を、誰にすすめるか
合う人と合わない人がいるサービスだと思う。
合いそうな人:
- 仕事でずっと張り詰めていて、自分を労る時間が完全に消えている人
- 恋愛のステージに進む前に、人に触れられる感覚を取り戻したい人
- マッチングアプリのやり取りに疲れていて、安全な範囲で人と関わりたい人
合わないかもしれない人:
- お金を払って男性と会うこと自体に強い抵抗がある人(無理して使うサービスではない)
- 「恋愛感情」を求めている人(これは恋愛ではなく、ケアのサービス)
私自身は、また行くかもしれないし、行かないかもしれない、というくらいの距離感で受け止めている。「困ったときの選択肢として知っている」だけで、日常がだいぶ生きやすくなった気がする。
おわりに
35歳になって初めて、自分の身体と心を「ケアの対象」として扱う時間を持った。
性的な体験そのものよりも、「丁寧に話を聞いてもらい、丁寧に触れられる」という、シンプルだけど普段の生活では手に入りづらい時間が、自分にとっての本質だった。
恋愛で誰かに選ばれることだけが、自己肯定の道ではない。自分で自分のために時間を使うこと、必要なら外部のサービスを賢く使うことも、自分を大事にする方法のひとつだと思えるようになった。
似たような心の状態にいる人が、選択肢として「こういう過ごし方もあるらしい」と知っておくだけでも、少しは生きやすくなるかもしれない。
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